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論文掲載:北谷の植物化石に残る分子を調べた論文が Organic Geochemistry 誌に掲載されました。

福井県立大学恐竜学部の中村英人准教授が責任著者、北海道大学大学院理学院博士後期課程の矢野滉紀さんが筆頭著者を務めた論文が Organic Geochemistry 誌に掲載されました。矢野さんは中村准教授が研究指導に加わっている学生で、この論文は矢野さんにとって初めての筆頭論文です。福井県立恐竜博物館の湯川弘一研究員も共著者として加わりました。
北谷の植物化石と復元図、化石に残っていた分子の構造(推定を含む)。イラスト:ツク之助 標本画像提供:福井県立恐竜博物館
北谷の植物化石と復元図、化石に残っていた分子の構造(推定を含む)。イラスト:ツク之助 標本画像提供:福井県立恐竜博物館
植物の分類には種子や果実などの特徴が重要なため、化石としてよく見つかる葉や枝だけでは、どの植物の仲間かを絞りきれないことが多くあります。福井県勝山市の北谷恐竜発掘現場で得られた約1億2000万年前(前期白亜紀)の植物化石4点に含まれる有機分子を分析したところ、針葉樹類の枝葉ブラキフィルムからはナンヨウスギ科と共通する成分が、絶滅したベネチテス類の葉タイロフィルムからは松脂などに含まれるピマラン型の成分が多く見つかりました。この結果は、ベネチテス類と針葉樹類が近縁であるという仮説を化学成分から支持し、形では名前のつかない植物片にも分子から近づける可能性を示しています。論文では、四環性ジテルパンの側鎖が伸びたと推定される成分も報告し、地層中の熱でできた可能性を議論しています。
この成果は2026年10月28日に、福井県立大学、北海道大学、福井県立恐竜博物館の連名でプレスリリースとして発表されました(福井県立大学のプレスリリース)。10月29日から2027年1月24日まで、福井県立恐竜博物館2階(化石クリーニング室上部の横)で関連の展示が行われます。論文は2026年11月13日まで、こちらのリンクから無料でお読みいただけます。

プレスリリースの内容

以下は、2026年10月28日に発表したプレスリリースから、「今回わかったこと」以降の本文を転載したものです。全文は福井県立大学のプレスリリースでご覧いただけます。
針葉樹の類縁を化学成分から探る
ブラキフィルムは、世界各地の恐竜時代の地層から見つかる、針葉樹類の枝葉の型につけられた名前です。異なる複数の科の針葉樹類がこの型の枝葉をつけていたため、今回の北谷の標本も、形だけでは科を絞りきれませんでした。そこで、もとの植物の類縁を調べるため、化石に残った成分を他の針葉樹類と比較しました。
今回の標本では、針葉樹類の樹脂などに由来し、四つの環を骨格にもつ「四環性ジテルパン」が豊富でした。ほかの成分も比較し、ナンヨウスギ科の仲間である可能性が支持されました。この科は現在、主に南半球に自生しますが、中生代には両半球に広く分布していました。この結果を用いれば、別の産地の化石や、形が十分に残っていない植物片でも、類縁がわかるかもしれません。
絶滅植物がつくっていた成分を探る
タイロフィルムは、ベネチテス類の葉に与えられた名前の1つです。ベネチテス類は、ソテツに似た葉をもつ絶滅植物で、中生代に世界各地に分布していました。花のような生殖器官をもつことから、かつては被子植物に近いと考えられたこともありましたが、近年は針葉樹類に近いと考える仮説が提唱されています。
タイロフィルムからは、松脂など針葉樹類の樹脂にも含まれる、ピマラン型とよばれる成分が多く見つかりました。この結果は、ベネチテス類と針葉樹類が近縁であるという仮説を、化石に残った化学成分から初めて裏付ける極めて重要なものです。
分子が地層中で受けた変化を調べる
化石に残る分子は、地層中で熱を受けて変化することがあります。今回の枝葉では、四環性ジテルパンの環状部分につながる炭素の鎖(側鎖)が伸びたと推定される成分が見つかりました(下図)。こうした変化があっても、環状部分には、もとの植物を比較するための骨格の特徴が残っていました。
推定構造の一例。左は四環性ジテルパンの例、右は本研究で見つかった側鎖が伸びた例。
推定構造の一例。左は四環性ジテルパンの例、右は本研究で見つかった側鎖が伸びた例。
側鎖の伸びた四環性ジテルパンは、天然試料からの報告が極めて少なく、古生代の石炭にも例があります。今回の成分は、その例と構造やでき方が異なるかもしれません。先行例は植物体内でつくられたと解釈されていますが、今回は地層中の熱で側鎖が伸びた可能性もあります。
研究の意義と今後
本研究は、形だけではわからなかった葉化石の類縁を、化学成分から推定する糸口を掴んだ点で画期的なものです。化学成分で植物のかけらを分類できれば、目に見える化石が得られない地層でも、周囲に生えていた植物を推定できるでしょう。例えば、ピマラン型成分は従来、針葉樹類など樹脂をつくる裸子植物を起源として解釈されてきました。今回の結果は、ベネチテス類も同成分をつくることを示し、従来の解釈の再考を迫るものです。今後は植物化石の種類を増やし、化学成分による植物分類の精度を高めるとともに、地層に残る分子の由来を考える手がかりを増やしていきたいと思います。また、北谷層の堆積岩中の化学成分を調べることで、より包括的に当時の植生や環境を探りたいと考えています。
用語解説
分子化石(バイオマーカー):生物がつくった有機分子に由来し、地層中で変化を受けながらも、もとの構造の特徴を残す分子。もとの成分をつくった生物の存在や種類を推定する手がかりになります。
ジテルペノイドとジテルパン:炭素数20を基本骨格とする化合物の一群がジテルペノイドです。地層中で酸素を含む部分などを失い、炭素と水素からなるジテルパンへ変わることがあります。

研究室の視点から

ここからは、研究室の視点から、この研究の背景と方法を追加で紹介します。中村研究室が北谷恐竜発掘現場で調査とサンプリングを始めたのは、2022年8月です。当時、中村准教授は北海道大学の助教で、矢野さんは学部4年生でした。その後、中村准教授が福井県立大学恐竜学部に着任し、現在は北谷の化石を、発掘現場のある地元で研究しています。
形だけでは類縁がわかりにくい植物片
北谷恐竜発掘現場では、恐竜の化石とともに、植物化石も見つかっています。植物化石は枝葉や種子などの部位ごとに見つかるのが普通で、形のよく残った枝葉の化石も報告されています(Yabe and Kubota, 2004; Yabe and Shibata, 2011 など)。しかし、種子や果実など類縁を知る手がかりになる部位が、枝葉と同じ植物のものとしてつながって見つかることはまれです。さらに、この地層には、材の破片など、細かくばらばらになった植物片も多く含まれています。化石に残った分子が植物の仲間ごとに特徴をもっていれば、形だけでは類縁がわからない枝葉の化石や、形の残っていない植物片でも、類縁を推定する手がかりが得られます。
絶滅植物と分子化石の対応
分子化石は、化石の中だけでなく、地層をつくる堆積岩の中にも含まれています。当時のどんな生物がどんな成分をつくっていたかが詳しくわかっていれば、堆積岩に残った分子から、当時の環境や生態系を復元できます。実際に、こうした目的で使われている分子化石は、すでに数多くあります。
一方で、中生代の陸上植物、特に今は絶滅した分類群が、どのような分子化石を残すのかについては、証拠がまだ多くありません。今回取り上げたタイロフィルムを含むベネチテス類でも、被子植物と裸子植物の違いを調べた研究の中で分析された例(Nakamura et al., 2010)や、被子植物に特有とされるオレアナンの有無を調べた研究(Taylor et al., 2006)はありましたが、分子化石の組成を体系的に調べたデータは、これまで報告されていませんでした。絶滅植物の化石そのものを分析することは、この空白を埋めるための、もっとも直接的な方法の一つです。
化石から分子を取り出して確かめる
ただし、化石にはもとの植物の情報がそのまま残っているとは限りません。確かめるべき点は2つあります。1つは保存の問題です。植物がつくった成分は、地層の中で熱などを受けて変化したり、分解されたりします。今回見つかった側鎖の伸びた成分も、基本骨格を残しつつ、側鎖部分が地層の中で変化した構造を持つことが推定されています。もう1つは混入の問題です。化石から見つかった成分が、周りの地層から入り込んだものではなく、その植物自身のものかを確かめる必要があります。
そこで本研究では、岩石の表面に炭質の膜として残った植物化石と、その周りの母岩を、別々に分析して比べました。化石の炭質部分を剥がし取るか削り取って、1試料あたり数十ミリグラムの粉末を集め、同じ岩石の母岩の部分も、表面に残った化石のかけらを削り落としてから粉末にしました。ほかの有機物が混ざらないよう、ガラス器具は使う前に高温で焼き、金属の道具は試料ごとに洗っています。粉末からは、有機溶媒に溶ける成分を超音波をかけて取り出し、性質の違いで炭化水素のグループに分けたうえで、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析しました。GC-MS は、混ざり合った成分を1つずつ分け、それぞれの質量と壊れ方から分子の構造を推定する装置です。化石と母岩の組成を比べることで、化石の植物そのものに由来する成分を確かめています。

参考文献

今回の論文
Yano, H., Nakamura, H., Yukawa, H. (2026) Extended tetracyclic diterpanes and pimarane-type diterpenoids from Lower Cretaceous plant fossils (Kitadani Formation, Japan): chemotaxonomic and diagenetic implications. Organic Geochemistry 222, 105314.(2026年11月13日まではこちらから無料でお読みいただけます)
本文で引用した文献
Nakamura, H., Sawada, K., Takahashi, M. (2010) Aliphatic and aromatic terpenoid biomarkers in Cretaceous and Paleogene angiosperm fossils from Japan. Organic Geochemistry 41, 975–980.
Taylor, D.W., Li, H., Dahl, J., Fago, F.J., Zinniker, D., Moldowan, J.M. (2006) Biogeochemical evidence for the presence of the angiosperm molecular fossil oleanane in Paleozoic and Mesozoic non-angiospermous fossils. Paleobiology 32, 179–190.