地衣類と担子菌酵母の共生(地衣体、第三の構成要素)

地衣類は、菌類と光合成をする藻類の共生により構成される生物で、地衣類を構成する菌類を共生菌(mycobiont), 藻類を共生藻(photobiont) という。
地衣類を構成する共生藻と共生菌の関係は基本的に一対一の関係にあり、地衣類の種ごとに共生菌は1種のみと考えられてきた。しかし、多くの地衣類において担子菌門の酵母 Cyphobasidium が共存していることが判明し、酵母が地衣体の構成に不可欠な第三の共生者として重要であることが示唆された(Spribille et al., 2016) 。

コメント:脂質・地衣成分について


今回報告された Cyphobasidium 酵母は皮層に分布していた。地衣類に特有の代謝産物(地衣物質)の中には皮層に特有の成分も多く、その有無は必ずしも主たる共生菌の系統と対応しないことから Spribille et al. (2016) は地衣物質が主たる地衣菌にのみ由来するというこれまでの考えには検証の余地があると指摘している。
地衣類は比較的高極性な化合物の多い地衣成分のほかに、奇数炭素優位性のある長鎖アルカン(陸上植物の表皮ワックスにも似る組成)や、炭素数20以下のアルケンといった炭化水素成分を持つ。炭化水素成分の地衣体内での機能や局在の詳細は明らかになっていないが、陸上植物の表皮ワックスのような長鎖組成については、とくに外界との接点となる皮層に分泌されて透水性を調節するような機能を担っている可能性がある。池田ら(2018)では地衣類の脂肪族炭化水素組成とそのバイオマーカーとしての応用の可能性について議論した。ここでも、長鎖アルカンは主に共生菌が生産していると想定したが、皮層を構成する Cyphobasidium による生産の可能性も考慮する必要があるだろう。その際には、Spribille et al. (2016) に示された地衣菌と Cyphobasidium の系統ごとの分布の対応関係の情報も参考にする(できれば分子系統解析により同定する)ことが望ましい。